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オーダースーツ生地の代表格「エルメネジルド・ゼニア」

世界にオーダースーツ生地のブランドは数多くありますが、中でも特に知名度が高いもののひとつがイタリアのゼニアです。現在、プレタポルテ(高級既製服)市場のおよそ30%をゼニアが製造しているとされ、エルメス、アルマーニ、グッチ、ベルサーチ、ダンヒル、ラルフ・ローレンなどの一流ブランドに生地を提供しています。今回はその魅力の秘密に迫ってみました。
そもそもゼニアとは
ブランドの名前は創業者のエルメネジルド・ゼニアに由来します。
1910年にエルメネジルドは、北イタリアにあるトリヴェロという町で毛織物工業を始めました。同社が創業以来、大切に守り伝える哲学があります、それは「自社で生産される生地は世界で一番美しいものでなければならない」ということ。事実、その生地の柔らかさと動きやすさ、またドレープの滑らかさは誰もが認める、同社の生地の特徴となっています。
世界一の生地が可能になる理由

それはひとことで言えば、素材と生産への徹底したこだわりということになるでしょう。同社では最良質の原毛(原料となる羊毛)を確保すべく、世界各地(オーストラリアや内モンゴルなど)の農家に教育を施して品質向上に努めるとともに、原毛の直接買い付けから糸への加工工程である紡績、染色や生地の織り上げまでの全ての工程を自社内で厳しい一元管理のもとに行っています。こうしたストイックなまでの取り組みがゼニアの生地のレベルの高さを可能にしているのです。
自然が作り出す高品質の生地

ゼニアの生地を品質の高いものにしている要因は他にもあります。
それは水。ゼニアのある北イタリアのトリヴェロは実はゼニア以外にも繊維や布を作る工場が多数集まるエリアです。どの工場でもアルプスからの良質な湧水を利用していますが、そのミネラル分の少ない超軟水が、原毛に本来備わっている柔らかな風合いを引き出し、生地の耐久性を高めるのにとても大きな役割を果たしています。自然の大いなる力と職人のたゆまぬ努力、このふたつが組み合わさってこそ、ゼニアの生地は質の高いものになるのです。
進化、成長を続けるゼニア
毛織物の工場としてスタートしたゼニアですが、1968年頃になると生地だけではなく、スーツやコート、ジャケット、シャツやパンツなどの生産も始めました。1972年にはパターンオーダー(既製服でありながら数多くのパターンを用意、顧客の体型、サイズ、嗜好、デザインに合わせ注文服的な衣服を作るもの)も開始し、ヨーロッパ・ファッションの中心地であるイタリアのミラノやフランスのパリにショップを構えるまでになりました。
その後もアイテムの数を増やし、現在では財布、ベルト、シューズ、ネクタイなども手掛けるようになっています。驚くべきはこれほど製品が多岐に渡るようになった今も、同社が原料の確保から製品化までを一貫して自社内で行う姿勢を維持し続けていること。それだけでなく、夏に涼しく着られる生地「クールエフェクト」やしわになりにくい「トラベラー」など、現代の様々なニーズに応える機能性の高い生地の開発・生産にも努めています。
日本への上陸は第二次大戦後

ゼニアの生地の輸入および卸と販売を行うゼニア・ジャパンが設営されたのは昭和52(1977)年でした。当時、日本の輸入スーツの主流はイギリス製でしたが、イタリアのブランド、アルマーニの登場で風向きが変わります。
ゆったりしたシルエットのアルマーニのスーツに対し、ウェストラインを絞った細身のゼニアは当初、苦戦を強いられましたが、その後風向きが変わります。男性ファション誌でゼニアの特集が組まれ、1990年代後半以降の男性ファッションのスリム化の傾向を受けしだいに評価を挙げていきました。国内の著名人が多数着用するようになると人気はさらにあがり、現在の地位を築くに至ったのです。